The Offshore Connotations

ライフワークである海洋開発についてのメモ

海洋石油ガス開発の構造

 エネルギー業界を考察する上での基本フレームとして、以下の三点が挙げられるのではないかと思う。

  1. 地政学:資源エネルギーは国力の基盤であるので、その安定供給は国家の死活的利益である。故に、国家は自らの国益のためにエネルギー市場へ介入することになる。
  2. 技術:エネルギー開発はart of engineeringであって、その帰趨はテクノロジーの動向に左右される。長らく叫ばれてきた石油ピークが未だ起こっていないのは(少なくとも供給量ベースでは)、深海開発やシェール開発といった技術面でのブレークスルーに依るところが大きい。
  3. 企業戦略とプロジェクト:ヒト、モノ、カネが業界内外においてどのように流れていくか、すなわち業界プレイヤーの人事、サプライチェーン、財務、営業戦略といった要素の集積が、個別のプロジェクトに結実し、実際にエネルギーを生産することになる。開発が市場を通じて行われる以上、市場原理におけるゴーイングコンサーンとしての成功を収める必要があり、そのロジックは地政学的な国益とは全く異なっている。

これら三つは密接に関連しあっているので、厳密に切り分けることは困難だろう。地政学は企業戦略に大きく影響するし、開発企業の戦略投資の結果がエネルギー供給構造を変化させ、地政学に作用することもある。また、たとえ技術も国家サポートもあっても、経営手腕が悪ければその事業を持続することは難しい。

 中国は増大する石油需要を少しでも満たすべく、近海域での海洋開発に注力しているが、テクノロジーは完全自給できていない。この脆弱性を回避すべく中国国営のエネルギー関連企業は欧米の開発プロジェクトに参画する形で技術習得に励んでいるように見える。実際、上流権益のみならず開発エンジニアリングの場面においても、中国勢はサプライチェーンにしっかりと食い込んでいる。中国の国益と、市場原理における成功をうまくバランスすべく、中国の国営会社は所有は国家なるも運営は市場経済のロジックに任されているようだ。

 このようにエネルギー業界というのは、その地政学的文脈における圧倒的重要性とは裏腹に、実際の開発作業は市場経済のルールに則っているところが面白いと思う。防衛産業のように、産業基盤維持のために一定の発注を国家が行うような「産業政策」が難しいのが、さらに面白くしている。資源産地は限られ参入障壁は高いため、市場競争に負けトップリーグから落ちれば、途端に技術も存在感も失われてしまうだろう。