The Offshore Connotations

ライフワークである海洋開発についてのメモ

テクニカル・ケイパビリティ: 広義の技術力

 Technologyと呼ぶものの中身について。ノーベル賞を取るような基礎研究成果や国家や大企業が抱える研究所で開発されるもの、あるいは特許のようなものを意味することもあるだろうが、個人的には、Capabilityということだと思う。もう少し厳密にいうと、technical capabilityということだろうか。

 馴染みのある言葉でいうと、営業秘密やノウハウに近い気がする。必ずしも「いかにも」な科学技術的成果である必要はなくて、やり方、秘伝のレシピみたいなものも含まれるという認識。例えば「シェール革命」というとき、それは明らかにテクノロジーの革命だと思うのだが、そこで意図されているのは適用される化学物質や用いられるドリル機器それ自体を指すわけではなく、広義の「やり方」(場合によっては、シェール企業の経営手法そのものも含むかもしれない)であろう。あるいは「バッテリー革命」というとき、基礎研究等のポーションがそこでは大きいかもしれないが、それだけではなくてその要素技術を工場にどう組み込んで、どう製品化して市場に届けるか、というところまで含めて考えるべきであって、それは狭義の科学技術の範疇を超えて事業のオペレーション・経営論に近い領域に入っているだろう。

 するとエネルギー業界の三要素は、次のように再定義できるだろうか。

  1. 地政学
  2. テクニカル・ケイパビリティ(TC)
  3. コーポレート・サスティナビリティ

 TCとは、プロジェクト遂行能力である。エネルギー開発は各企業のTCの集積として結実する。

 サスティナビリティとは何か。これは事業継続性である。いくら優れたTCを誇っても、TCの受け皿となる企業体が持続的な事業運営を行わなければ会社は潰れ、TCは消えてしまうだろう。いわばTCを支える土台である。特に地政学的介入が盛んに行われる中で、それらをうまく回避あるいは利用しながら事業継続性を高める施策が求められよう。

海洋石油ガス開発の構造

 エネルギー業界を考察する上での基本フレームとして、以下の三点が挙げられるのではないかと思う。

  1. 地政学:資源エネルギーは国力の基盤であるので、その安定供給は国家の死活的利益である。故に、国家は自らの国益のためにエネルギー市場へ介入することになる。
  2. 技術:エネルギー開発はart of engineeringであって、その帰趨はテクノロジーの動向に左右される。長らく叫ばれてきた石油ピークが未だ起こっていないのは(少なくとも供給量ベースでは)、深海開発やシェール開発といった技術面でのブレークスルーに依るところが大きい。
  3. 企業戦略とプロジェクト:ヒト、モノ、カネが業界内外においてどのように流れていくか、すなわち業界プレイヤーの人事、サプライチェーン、財務、営業戦略といった要素の集積が、個別のプロジェクトに結実し、実際にエネルギーを生産することになる。開発が市場を通じて行われる以上、市場原理におけるゴーイングコンサーンとしての成功を収める必要があり、そのロジックは地政学的な国益とは全く異なっている。

これら三つは密接に関連しあっているので、厳密に切り分けることは困難だろう。地政学は企業戦略に大きく影響するし、開発企業の戦略投資の結果がエネルギー供給構造を変化させ、地政学に作用することもある。また、たとえ技術も国家サポートもあっても、経営手腕が悪ければその事業を持続することは難しい。

 中国は増大する石油需要を少しでも満たすべく、近海域での海洋開発に注力しているが、テクノロジーは完全自給できていない。この脆弱性を回避すべく中国国営のエネルギー関連企業は欧米の開発プロジェクトに参画する形で技術習得に励んでいるように見える。実際、上流権益のみならず開発エンジニアリングの場面においても、中国勢はサプライチェーンにしっかりと食い込んでいる。中国の国益と、市場原理における成功をうまくバランスすべく、中国の国営会社は所有は国家なるも運営は市場経済のロジックに任されているようだ。

 このようにエネルギー業界というのは、その地政学的文脈における圧倒的重要性とは裏腹に、実際の開発作業は市場経済のルールに則っているところが面白いと思う。防衛産業のように、産業基盤維持のために一定の発注を国家が行うような「産業政策」が難しいのが、さらに面白くしている。資源産地は限られ参入障壁は高いため、市場競争に負けトップリーグから落ちれば、途端に技術も存在感も失われてしまうだろう。

 

 

中国が構想する次世代シーパワー「制瀕海権」

国際問題研究所の論考にて言及されていた中国国防大学研究者の提唱するシーパワー論が非常に面白かったので紹介したい。

http://www2.jiia.or.jp/pdf/research/H28_China/09-suzuki.pdf

 

ざっくりいうと、従来のシーパワーは宗主国ー海運ー植民地を結ぶシーレーン防衛に主眼を置いた線的な概念であり、これは「海洋通商時代」においては適していた、しかし現代、そして近未来は海洋開発がさらなる付加価値を生み出していく「海洋工業時代」であり、そこにフィットするのは線ではなく面的な防衛、いわば陸地の延長として沿海域をコントロールするという思想である。といった具合だ。

 海洋経済開発をライフテーマに据える私にとって衝撃的かつ刺激的なのは、中国上層知識人が唱える国防戦略の前提として、「大規模な海洋開発」が予測されていること。

 海洋の付加価値を最大化するという、私が抱くビジョンを隣国が同様に構想し、それがアグレッシブな海洋進出の土台となり国際紛争を誘発しているというのは複雑な気持ちになるが。。

 何れにせよ、新たなテクノロジー地政学を再構築する。Tecnology reshapes Geopolitics. である。

 

以下同論考より引用。

 

に、そうした「対海」から「海上転換は、以下のような、にお ける海洋の規模発を念頭いている「。海洋事業が業化のプロスにだ後には、今日のわかばかりの海上石油スの掘削設から、規模海上工廠に発展し、力に海上都市も出し、規模な地下資源掘削施設〕や、より規模な海も生れるう。海上には、守るべ戦略目に出し、海上の戦略り、これは海上の目と地域的な戦略を要するう」(資料B/2010; 83)。

Team KUROSHIO クラウドファンディングでも話題になった海底地図マッピングが熱い!

 Team KUROSIOをご存知だろうか。JAMSTECヤマハ発動機KDDIなどの技術者が中心となって構成するチームで、アメリカのX Prize財団が主催する海底地図マッピングレースに参加し、見事決勝まで勝ち進んでいる。

https://team-kuroshio.jp

(参加団体は以下、出典はリンク先公式HP)

f:id:Schoolboy:20180922215155p:plain

 ちなみにこのレース、メインスポンサーはかのオイルメジャー、ロイヤル・ダッチ・シェル社であり、レースタイトルはShell Ocean Discoveryとのこと。

Ocean Discovery XPRIZE

 (デザインが無駄にカッコいい。。。)f:id:Schoolboy:20180922215312p:plain

 今や世界の原油生産のうち3割強は海洋油田からの生産であり、全体の1割近くがいわゆる「深海」油田だ。深海の定義は様々だが、現在、世界で最も深い油田は約水深3000Mと言われている。メキシコ湾でシェル社がオペレーターを務めるStones油田がそれである。FPSOと呼ばれる原油タンカーを改造した浮体式原油生産設備を、Turretと呼ばれる係留設備を用いて洋上に固定し、長期(大きな油田であれば20年近く)に渡り生産を継続する。

 

youtu.be

海底油田開発に必要な設備には大きく分けて二種類ある。一つは先ほど紹介したFPSOに代表される洋上生産設備、もう一つは海底に設置される油田コントロールシステムであり、一般にSubsea systemsと呼ばれる。このsubsea工事を実施するにあたっては、当然人間のダイバーが潜れる深さではないので、AUV (Autonomous Underwater Vehicle)が用いられるわけだが、今回KUROSHIOがレースに使用しているのも、まさにこのAUVだ。4000Mという超深海での高速マッピングという高難易度作業に挑戦することで、AUV分野でのイノベーションが大いに期待されるところである。

https://www.oceaneering.com/survey-and-mapping/geoscience-and-auv-surveys/

youtu.be

 

また、海底の「マッピング」という点もポイントだ。これは石油開発に留まらず、海底科学探査、水中考古学、海洋環境調査等、多方面で需要のあるテクノロジーである。某企業の社長が月旅行をするということで話題になっているが、今や、月や火星の表面の方がよっぽど詳しく見えている。深海底は光や電波の届かない究極の暗闇であり、まさに、現代最高級のフロンティアと呼ぶに相応しい。

海洋ガバナンスの奥深さ

 人類の歴史を見ると、社会制度や政治制度の根源には地理がありそうです。肥沃な穀倉地帯と寒冷な荒野では、成立する社会・政治制度はおよそ似たものにはなりません。とはいえ19世紀以降の「グローバル化」の中で、欧米的な国民国家システム・主権国家システムが地球を覆うことになり、現代に至ります。いわば、地理的な差異を無視あるいは克服せんかのごとく、画一的なシステムが各地に移植されていきました。

 その画一的統治システムは、いわゆる三権分立で説明される、立法・行政・司法からなる複合システムです。立法あるいは議会のあり方については、いわゆる純粋なデモクラシーから権威主義的なものまで国によって幅がありますが、こうした主要要素は大凡どこの国でも見られるでしょう。このシステムに覆われた領域内においては、何事も整然と、粛々と、定められた手続きを踏むことで決定されます。警察権力により犯罪は抑止され、また起きた際には司法が裁きます。国内立法が未熟な一部の国を除けば、グレーゾーンの余地は限りなく少ないでしょう。

 しかしながら、この厳密な統治も、結局は陸の上だからできること。「足が付く」という表現がありますが、まさに人間が根を下ろし、足跡を残しながら活動するからこそ、統治機構は国民をコントロールできるのです。翻って海はどうか。国連海洋法条約は領海や排他的経済水域、公海等について大まかなガイドラインを示していますが、海洋での活動を網羅的に制御できるほどの厳密さはありません。

 海は巨大な空間です。かつ、水面下は深いところでは深度1万メートルに達する、暗く謎に包まれた膨大な空間を湛えています。さらに、海流、波、風の影響で、浮遊物は一点に止まることなく漂います。

 広さは統治の敵です。管理システムへの莫大な投資を要するからです。アレクサンドロス大王の大帝国も、フビライ元帝国も、広さに起因する統治コストに押しつぶされたと言えるのではないでしょうか。また対象の全貌が把握できないというのは、統治者にとっては不都合なことです。アフリカ大陸に進出した大英帝国はリビングストンといった探検家を送り調査させました。統治の前触れに探検があるのは、何も偶然ではないでしょう。また「動いてしまう」というのは、海洋空間の一番の特徴だと思いますが、そもそも人間の活動を制限します。1年近く海を駆ける漁師もいますが、大半の人間にできることではありません。この「茫漠性」「不可視性」「浮遊性」といった海洋環境の特徴により、(沿岸国に近接する領海内であればまだしも)海洋空間を「陸の上」の発想で統治することは難しいと言えるでしょう。そこで登場するのが「ガバナンス」という視点です。

 ガバナンス、というのは定義が難しそうです。私は今の所、簡便な理解として、「垂直方向の統治制度」であるガバメントの対置概念として、「水平方向の協調制度」をガバナンスと捉えることとしています。ガバナンスは、まさしく海洋環境と親和性が高い。海には様々なプレイヤーがいます。海軍軍人、漁師、学者(生物学者、地質学者、気候学者、考古学者等)、環境NGO、石油掘削員、ヨット乗り、などです。国籍もイデオロギーも活動の動機もてんでバラバラです。「陸」であれば、デモクラシーや各種の意見表出制度、紛争解決制度等を介して、こうした多様性すら「統治」の対象になります。海はそうではない。「お上」が存在しない領域における協調制度の構築は、「陸」の政府間合意である国際法を基軸としつつ、企業、NGO、研究機関等が情報共有、活動基準の策定、協調テーマの議論と実行等において、緩やかに連帯しながら進める他ありません。本ブログは、こうした海洋ガバナンスを主題として、

  • Power Relations: 海の力学(安全保障)
  • Legal Framework: 海の秩序(国際法・その他法制度)
  • Exploration: 海の研究(水中考古学、海底科学探査)
  • Exploitation: 海の開発(海洋資源開発)
  • Sustainability: 海の保全(海洋環境)

という5本柱を中心に考察して行きたいと思います。なお私の本業は海洋資源なので、そちらが多くなる可能性もあります。

 

よろしくどうぞ。